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凡例〔 〕内は引用者註


平成24年3月28日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官 小沼純子
平成23年行コ)第287号国籍確認等請求控訴事件(原審・東京地方裁判所平成22年行ウ)第508号)
口頭弁論終結日 平成24年1月18日

判決

東京都武蔵野市吉祥寺本町2丁目4番17−1401号
エストグランディール吉祥寺本町
控訴人        金 明觀〔控訴人の項以下省略〕
上記訴訟代理人弁護士 張 學鍊

東京都千代田区霞が関1丁目1番1号
被控訴人       国
代表者法務大臣    小川 敏夫
上記指定代理人    宇波なほ美
           前畑 聡子
           石井 博之
           上坪 健治
           大平 浩志

主文

1 本件控訴を棄却する。

2 控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第1 控訴の趣旨

1 原判決を取り消す。

2(1) 本件を原審に差し戻す。
又は
(2) ア 控訴人が日本国籍を有することを確認する。
イ 被控訴人は,控訴人に対し,550万円及びこれに対する平成22年9月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要

 本件は,控訴人が,昭和25年11月27日に日本において当時日本国籍を有していた両親の間に出生して日本国籍を取得していたにもかかわらず,日本国との平和条約(昭和27年条約第5号。以下「平和条約」という。)の発効に伴い法務府民事局長が発した「平和条約の発効に伴う朝鮮人,台湾人等に関する国籍及び戸籍事務の処理」と題する通達(昭和27年4月19日付け法務府民事甲第438号民事局長通達。乙1。以下「本件通達」という。)により,事実上日本国籍を剥奪される扱い(以下「本件処分」という。)を受けたところ,本件処分は,平和条約又は法令に根拠が示されておらず,かつ,憲法10条13条及び14条に反するから,違法であり無効であると主張して,被控訴人に対し,控訴人が日本国籍を有することの確認を求めるとともに,本件処分により多大な精神的損害を被ったとして,国家賠償法1条1項に基づき,慰謝料500万円及び弁護士費用50万円並びにこれらに対する遅延損害金の支払を求める事案である。なお,控訴人は,平成23年5月11日の原審第3回口頭弁論期日において,本件において,控訴人としては,控訴人の国籍の喪失は,本件通達に係る本件処分により生じたと主張するものであると陳述した。

原審は,控訴人は平和条約の発効によって日本国籍を失ったとして,控訴人の請求を棄却し,控訴人は,これを不服として控訴した。

 事案の概要の詳細は,当審における当事者の主張を踏まえ後記3を加えるほかは,原判決の「事実及び理由」中「第2 事案の概要等」のないしに記載のとおりであるから,これを引用する。

3 控訴人の予備的主張

仮に,控訴人が,本件通達により日本国籍を失ったものでないとしても,平和条約の発効により日本国籍を失ったとすることは,国籍を法律の定めなく変動させてはならない旨を規定する憲法10条に違反して許されず,同意なく恣意的に国籍を奪われない権利を保障している同法13条にも違反して許されないばかりでなく,朝鮮戸籍への登載に注目して控訴人の日本国籍を失わせたのは,本人又は親の出身地,帰属に注目し,朝鮮出身者あるいは朝鮮民族に特別な不利益を与えるものであって,同法14条に違反して許されないというべきである。

なお,控訴人は,原審でもこの主張をしたにもかかわらず,原判決は,この点について判断を示していないのであるから,この点の審理を尽くすため,本件を原審に差し戻すか,又は,この点について審理判断して,控訴人の請求を認容すべきである。

第3 当裁判所の判断

 当裁判所も,控訴人は,平和条約の発効によって日本国籍を失ったものであり,控訴人の本件請求はいずれも理由がなく,棄却すべきものと判断する。その理由は,次のとおり補正し,後記2を加えるほかは,原判決の「事実及び理由」中「第3 争点に対する判断」のないしに記載のとおりであるから,これを引用する。

原判決19頁16行目末尾の次に改行の上,以下のとおり加える。

「 なお,控訴人が,平和条約の発効により日本国籍を失ったことについて被控訴人に国家賠償法上の違法行為がある旨も主張するものであるとしても,前判示の各点及び控訴人の予備的主張について後に説示する点に照らせば,被控訴人に上記違法行為があるとは認められない。」

2 控訴人の予備的主張について

(1) 憲法10条違反

控訴人は平和条約の発効により日本国籍を失ったものと認められることは前記1判示のとおりであるところ,控訴人は,平和条約の発効により控訴人が日本国籍を失ったとすることは,国籍を法律の定めなく変動させてはならないと規定する憲法10条に違反して許されない旨主張する。

しかし,憲法10条は,日本国民たる要件は法律でこれを定める旨を規定しているとはいえ,日本国民の要件を定めた国籍法は,領土の変更に伴う国籍の変更については規定していない。しかも,領土の変更に伴って国籍の変更を生ずることは,疑いをいれないところであるが,この変更に関しては,国際法上で確定した原則がなく,各場合に条約によって明示的又は黙示的に定められるのを通例とするのであるから,前記1判示のように,憲法は,領土の変更に伴う国籍の変更について条約で定めることを認めた趣旨と解するのが相当である。(昭和36年最高裁判決参照)

したがって,平和条約の発効により控訴人が日本国籍を喪失したとすることが憲法10条に違反して許されない旨の控訴人の主張は採用することができない。

(2) 憲法13条違反の主張について

控訴人は,平和条約の発効により控訴人が日本国籍を失ったとすることは,同意なく恣意的に国籍を奪われない権利を保障している憲法13条に違反して許されない旨主張する。

しかし,憲法は,その13条を含めて,領土の変更に伴う国籍の変更について条約で定めることを認めた趣旨と解するのが相当であるところ,平和条約2条(a)項は,日本が,朝鮮の独立を承認して,朝鮮に属すべき領土に対する主権を放棄すると同時に朝鮮に属すべき人に対する主権をも放棄したものと解され,朝鮮に属すべき人に対する主権を放棄することは,このような人について日本の国籍を喪失させることになるというべきであり(最判昭和36年判決参照),その結果,平和条約の発効により,控訴人の日本の国籍が失われることになったことは前記1判示のとおりである。以上によれば,控訴人が日本国籍を失ったことについては,平和条約の定めるところによるのであって,恣意的なものであるとは認められず,憲法13条もこれを認めるものというべきである。これに対し,控訴人は,平和条約2条(a)項は日本が対人主権まで放棄したものと解することできない旨を主張するようであるが,この主張に理由のないことは,前記1判示のとおりである。

したがって,平和条約の発効により控訴人が日本国籍を失ったとすることが憲法13条に違反する旨の控訴人の主張は採用することができない。

(3) 憲法14条違反の主張について

控訴人は,平和条約の発効により控訴人が日本国籍を失ったとすることは,朝鮮戸籍への登載に注目して控訴人の日本国籍を失わせたもので,本人又は親の出身地,帰属に注目し,朝鮮出身者あるいは朝鮮民族に特別な不利益を与えるものであって,憲法14条に違反して許されない旨主張する。

しかし,憲法は,その14条を含めて,領土の変更に伴う国籍の変更について条約で定めることを認めた趣旨と解するのが相当であるところ,平和条約2条(a)項は,日本が,朝鮮の独立を承認して,朝鮮に属すべき領土に対する主権を放棄すると同時に朝鮮に属すべき人に対する主権をも放棄したものと解され,朝鮮に属すべき人に対する主権を放棄することは,このような人について日本の国籍を喪失させることになるというべきであり,この朝鮮に属すべき人の範囲は日本の国内法上で朝鮮人としての法的地位をもっていた人,すなわち,戸籍のみならず適用される法律も異にしていた,朝鮮戸籍令の適用を受け,朝鮮戸籍に登載されるべき地位にあった人と解すべきことは,いずれも前記1判示のとおりである。以上によれば,控訴人を含む上記の法的地位にあった人すべてについて,平和条約の発効により,その日本の国籍が失われることになったとしても,平和条約の定めるところであり,平和条約2条(a)項について,上記の法的地位にあった人すべてを同様に取り扱うものであって,合理性を欠くものともいえず,憲法14条もこれを認めているものというべきである。以上は,最高裁昭和36年判決の趣旨に徴し明らかである。

したがって,平和条約の発効により控訴人が日本国籍を失ったことが憲法14条に違反して許されない旨の控訴人の主張は採用することができない。

(4) その他の主張

なお,控訴人は,原審においても上記各予備的主張をしたにもかかわらず,原判決はこの点について判断していないのであるから,この点の審理を尽くすため,本件を原審に差し戻すべき旨も主張するようである。

しかし,控訴人は,平成23年5月11日の原審第3回口頭弁論期日で,本件において,控訴人としては,控訴人の国籍の喪失は,本件通達に係る本件処分により生じたと主張するものであると陳述したことが記録上明らかであることに照らすと,控訴人が原審においても上記の各予備的主張をしていたものとは認められず,控訴人の主張は採用することができない。

3 結論

以上によれば,控訴人の請求をいずれも棄却した原判決は相当であり,本件控訴は理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。

東京高等裁判所第5民事部
裁判長裁判官 大竹たかし
   裁判官 山アまさよ
   裁判官 栗原 壯太

これは正本である。
平成24年3月28日
東京高等裁判所第5民事部
裁判所書記官 小沼純子

原典について


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公開日:2012年4月16日、最終更新日:2013年1月4日
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